【第1回】街にある老舗の洋食屋に行った話

 友人や家族と洋食を食べに行くことになった時、候補に挙がるのはどんなお店だろうか?おそらく、ガストやサイゼリヤロイヤルホストなどのファミレスチェーン店である場合が多いはずだ。

  僕も学生時代に友人と洋食を食べに行くことになった時は、サイゼリヤをよく利用していた。そして、底がめちゃくちゃ浅いミラノ風ドリアを注文して、友人たちと共にこれ底浅くない?ミラノ風ドリアをディスり、馬鹿話で盛り上がり、腹三分目ぐらいでサイゼリヤから帰るのである。

 サイゼリヤは、れっきとした洋食屋である。しかし、僕が洋食屋と聞いて真っ先に思い浮かべるのは「アリアケ」である。「アリアケ」は「流星の絆」という作品に登場する小さな洋食屋の名前だ。おい、架空の店じゃねえか!というツッコミが聞こえてきそうではあるが、ここで時代を2008年に戻そう(唐突)

 2008年、僕は中学3年生であった。中学3年生というと避けられないのが高校受験である。そのため、日本国内で塾と呼ばれている強制的に生徒を閉じ込めて勉強をさせるという施設に僕も通っていた。塾では夜遅くまで勉強をする。そして、塾から帰ると僕は、レンジで温めた晩飯を一人食卓で食べるのであった。ただ、これでは寂しすぎるので、晩飯を食べるときはいつもテレビをつけるようにしていた。そんな時に僕は「流星の絆」というドラマに出会ったのである。このドラマはもちろん話自体も面白かったのであるが、物語のキーとなるハヤシライスが、これはまたとても美味しそうだったのだ。(映像のプロが美味しそうに見えるように撮影と編集をしているのだから当然と言えば当然であるが…)この時僕の脳内には「洋食屋=アリアケ=ハヤシライス」という強烈な連想記憶が刻み込まれた。

 2017年、社会人になった僕は東大阪という場所で一人暮らしをしている。この東大阪という場所は、梅田や中之島のような都会的でお洒落な場所とは違って、昔ながらの街並みが残る場所である。僕はその街並みが好きなので、休みの日に散歩をする時がある。パチンコの店がとてつもなく多いのでウンザリしたりもするが、老舗のお店が残っていたりもして、歩いてみるだけでもなかなか面白いのだ。その散歩の中で、僕は以前に小さな老舗の洋食屋を見つけていた。「アリアケ」を連想させるような洋食屋である。そして、「アリアケ」と言ったらハヤシライスだ。前置きがとても長くなってしまったが、今日はその洋食屋でハヤシライスを食べてみることにしたのだ。

  店に入ると、老夫婦と若いコックがコックコートを着て厨房で忙しくしておられた。ザ・洋食屋という雰囲気である。とりあえず、念願のハヤシライスを注文しようと思った僕は、席に着いてからメニューの中にハヤシライスがあるかどうかを確認した。メニューをノーチェックでハヤシライスを注文する勇気はなかったのだ。

 

メニューにハヤシライスはなかった。

 

 まあ、これが人生というものである。僕はハヤシライスの代わりにオムライスを頼むことにした。店内はとても静かだったので、料理が作られていく音だけが厨房から店内に心地よく響いていた。フライパンでチキンライスが炒められる音や包丁が野菜を刻む音、カツレツやエビフライが油で揚げられる音。さまざまな音たちが絡まりあって織りなす複雑なハーモニーは、ハヤシライスがないことに落胆した僕の心を慰め、オムライスへの期待と食欲を膨らませた…痛いポエムはここまでにしよう。

 出てきたオムライスは一見普通のオムライスであった。一口食べてみると、味も普通であると思われた。一般家庭でも出せそうな味である気がしたからだ。しかし、食べ進めるとこれは美味しいと思った。もちろん、鉄パイプで殴られたようなガツンとした美味しさではない。レシピの細部にこだわりがあるのだろうなと感じさせる美味しさだったのである(他に良い表現が見つからなかった)。

 僕が会計を済ませて店を後にした時、店内は満席であった。この老舗の洋食屋は、地元の方たちにとても愛されているお店だったのだ。何だかそれを見て少し嬉しくなった僕は、また今度ここにカツレツを食べに来ようと思った。この記事を読んでくださったみなさんも、一度そんなお店を探してみてはいかがだろうか。